胎児緩和ケアとは

こんにちは🌸

前の記事でも書きましたが、
以前は、赤ちゃんに完全に治癒する見込みのない病気があると分かった場合は妊娠を諦めるか、新生児集中治療室にて治療を行うかの2択でした。

しかし
2008年に船戸先生によって「胎児緩和ケア」という概念が紹介され、
現在、赤ちゃんへの最善の医療を決定するうえで、

この情報もご両親に提供されています。
 
胎児緩和ケアとはどのようなケアなのでしょうか。


本文の中では

身体的・精神的・社会的・スピリチュアルを抱合したケアのための積極的・包括的アプローチである。すなわち胎児・新生児のQOLの向上と家族の支援に焦点を当て、不快な症状のコントロール、家族の慰安と死別の準備、死のプロセスと悲嘆への支援も含めるケア概念である。

とされています。
 
私の勝手なイメージなのですが、「緩和ケア」というと積極的な治療(少しでも延命できるように何らかの対処をする、など)の反対の立場にあるものだと思っていました。
しかし、この定義の1行目を読むと、そうではなく、
「身体的・精神的・社会的・スピリチュアルを抱合したケア」を考えたときに、最善と考えられることを積極的に行うケアのことを指すようです。
 


具体的には次のような支援が行われます。

例えば、緩和ケアプログラムの計画として、
気管に管を挿すか、心臓マッサージをするかといったような蘇生処置の可否
吸引をしたり、痛みを和らげる薬を投与したりといった医学的介入の有無に関することを
事前にチェックリストとして作成し、両親の希望を聞くようにしているそうです。
そうすることで「不快な症状のコントロール」をどのような計画で行っていくか医療者側と両親側が納得して意志を決定できます。

また、「家族の慰安と死別の準備」として本文の中は、このような例が挙げられていました。

  • 新生児の乾燥と保温
  • 温かいブランケットの供給
  • 帽子の供給
  • 母児同室を勧める.
  • 医学的に安全な行為の場合,母親の参与制限を最小限にする.
  • 必要なら照度を下げる.
  • 仕事の妨げでない限り,両親およびその他の家族の付添いをできるだけ多く許可する.
  • 兄弟姉妹が安心できるようにする.新生児のために手紙を書いたり絵を書いたりすることを望むかもしれない.
  • 適応があれば悲嘆の準備や思い出形成を行う.例えば手足のプリント,写真,ビデオ,毛髪など共有行為を推奨する.
  • 新生児をお風呂に入れたり,服を着替えさしたり,可能であれば哺乳したり,オムツを替えたりすることで親子結合や相互作用を推奨する.
  • 新生児を外に連れ出し,平和で自然な環境で過ごせるよう推奨する.

          参考文献 表3 慰安(コンフォート)ケア(全新生児対象)より

そして、病院で亡くなった場合や家に帰った場合など、赤ちゃんの最期をどのように迎えるかについてもケアプログラムに含まれ、計画されます。
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だんだんイメージがついてきたでしょうか?

この胎児緩和ケアの目標は「赤ちゃんとその家族の最善のQOL(いのちの輝き)」を支援することです。
ですから、それぞれの赤ちゃんやご家族にとって何が最適であるかは異なってくると思います。家族の中や医療者とのコミュニケーションが不可欠でしょう。
 
イギリスの調査では、

出生する前に赤ちゃんの致死的な病気が診断されたあとに、こうした胎児緩和ケアの選択を提示することで20例中8例(40%)が人工流産に代わって妊娠の継続と緩和ケアを選択した、という報告があります。
 


この胎児緩和ケアの概念の導入により、
「赤ちゃんがお腹にいる時間が母親にとっても赤ちゃんを最も愛し慈しめる時間であり、生前診断後の時間が両親にとって絶望的な忌むべき時間ではなく、胎児との残された大切な時間に変化する可能性がある。」
と船戸先生は述べています。
 


もちろん、穏やかな時間と同等、またはそれ以上に両親の精神的負担は否めません。
また、デメリットとしては
同様に赤ちゃんの死を選択する人工妊娠中絶と比較すると、出産よりも中絶のほうが母体へのリスクが少ないことや、赤ちゃんの生命力に任せているうちに母体内で死亡してしまう可能性もあります。
 
また一方で、両親の考えがのちのち変わり、出生後の蘇生や治療を希望すれば、児を救命することもできるというメリットもあります。
(例えば、実際に18トリソミー患者会に入られている方から
「当初は緩和ケアを希望していたが、娘が頑張る姿を見ているうちに積極的な治療を希望するようになった」という声が寄せてられていたのを目にしたことがあります。)
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今回は「胎児緩和ケア」について勉強しました。
家族が赤ちゃんを抱っこしたり、家族と共に過ごす時間をとったり、家族が可能なケアをすることで、赤ちゃんの尊厳を守ることを土台にした「胎児緩和ケア」
という選択肢を知ってもらうことが、両親の納得した決定につながれば、と考えています。

 

ただし!

両親がどんな選択をしたとしても、医療者側はそれを尊重し中立的に対応すべきです。

その姿勢を忘れずに支援を行えるよう、今後も精進します🌼

 

参考文献

  • 船戸正久・玉井普・和田浩・池上等,2008,「胎児緩和ケア(fetal palliative care)の紹介」『日本周産期・新生児医学会雑誌』44(4): 920-924.
  • 櫻井浩子.“妊娠22週児の出生をめぐる倫理的問題──新生児医療からのアプローチ”.立命館大学生存学研究所. 2009年12月04日